朝井リョウさん作家生活10周年記念作品の黒版と白版をご存知でしょうか?
黒版『正欲』
白版『スター』
今回は朝井リョウさんが節目の年に書いた小説2冊をご紹介します!
・朝井リョウさんの作品を読んだことがないけど、何から読んだらいいの?
・黒版白版って聞いたことあるけど、どんな話なの?
2冊は繋がりがあるの?
黒版『正欲』
『正欲』のあらすじ
生き延びるために
アマゾン公式サイトより
本当に大切なものとは、
何なのだろう。
小説家としても一人の人間と
しても、明らかに大きな
ターニングポイントとなる作品です。
――朝井リョウ
自分が想像できる”多様性”だけ礼賛して、秩序整えた気になって、
そりゃ気持ちいいよな。
息子が不登校になった検事・啓喜。
初めての恋に気づく女子大生・八重子。
ひとつの秘密を抱える契約社員・夏月。
ある人の事故死をきっかけに、それぞれの人生が重なり合う。
だがその繋がりは、”多様性を尊重する時代"にとって、ひどく不都合なものだった。
この世界で生きていくために、手を組みませんか。
読む前の自分には戻れない、気迫の長編小説。(解説・東畑開人)
『正欲』の感想
《多様性》ってなんだろう。
多様性を認めよう!とか、
ダイバーシティ!とか、
知っているようで、本当に分かっているのかと言われると謎ですよね。
本書を読んでいくうちに、
人がそれぞれ持つ性的指向や性的嗜好。
それらを認めよう!というのはどこか上から目線な気がしてきます。
自分達が認められるものをまとめて多様性と言って、
認められないものを異常者だとくくる…本当にそれで多様性?
本書はそんなことを問いかけてきます。
認めることの難しさ
ネタバレになるので詳しくは伏せますが、本書は冒頭の記事がすべての伏線になっています。
小児性愛者について書かれた記事。
彼らの本当の目的が分かったとき、彼らを本当の意味で認めることが私たちにできるのでしょうか。
本書すべての根底にあるのは、認めることの難しさだと思います。
弁護士と息子。寝具販売員と向かいで働く女性。ダンサーと八重子。
それぞれの思いがあり、それぞれの「常識」があります。
自身がマジョリティに属していると思っている側や、自称マイノリティは、
弱い立場のマイノリティを理解してやろうという気持ちを持っていることがわかります。
本当の意味で相手を認めることというのは、その相手が心を開いていいと思えたときにしかできないのだと考えました。
心を開き、自分が弱いと思っている部分をさらけ出しても構わないと思った相手しか、認め合うことはできないのです。
それ以外は、自己満足のものなのだと本書は教えてくれているように感じました。
『正欲』の特徴
多様性の奇妙さ
【多様性】という言葉の奇妙さを物語の根底に置いたまま、人間関係に悩む人々のストーリーが展開していきます。
【多様性を認めよう】って言葉、おかしくない?
認めるってなに?
その人は確かに存在しているのに。
そんなメッセージを登場人物から感じます。
「マイノリティ」の奇妙さ
マイノリティとマジョリティ。マイノリティとマイノリティ。
この奇妙な対立構造も、本書の特徴だと感じました。
マイノリティとマジョリティは、問題視されがちですが、マイノリティ同士の対立は奇妙な感じになります。
認められるマイノリティと認められないマイノリティがたしかに存在し、認め合おうと言っている不思議。
『正欲』がオススメな人
よく聞くけど…なにがマイノリティで、なにがマジョリティ?
そんなこと考えたことはありませんか?
当たり前に言っている言葉について疑問を持ったことがある人は必読です。
上記のような言葉に対して、なにかしら考えたことがある人は、共感するところがあるかもしれません。
とくに、最近は「多様な性を理解しましょう!」という法律ができて、考えている人が多いと思います。
本書は考えるきっかけ、深みを与えてくれると思います。
「多様性」ってよく聞くけど、人はそれぞれの性格や個性があるのだから、多様性があるのは当たり前じゃない?
そんなことを考えたことがある人にも読んでいただきたいです。
また、「多様性」について考えたことないけれど、どこから考えれば良いのかわからない!
そんな人にも、考えるためのヒントになるので読んでいただきたいです。
こんな人にオススメです!
ぜひ読んでみてください。
白版『スター』
『スター』のあらすじ
国民的スターって、今、いないよな。…… いや、もう、いらないのかも。
誰もが発信者となった今、プロとアマチュアの境界線は消えた。
新時代の「スター」は誰だ。
「どっちが先に有名監督になるか、勝負だな」
新人の登竜門となる映画祭でグランプリを受賞した 立原尚吾と大土井紘。ふたりは大学卒業後、 名監督への弟子入りとYouTubeでの発信という真逆の道を選ぶ。 受賞歴、再生回数、完成度、利益、受け手の反応―― 作品の質や価値は何をもって測られるのか。
私たちはこの世界に、どの物差しを添えるのか。
ベストセラー『正欲』と共に作家生活10周年を飾った長編小説が待望の文庫化。
Amazon公式サイトより
『スター』の感想
何がいいのか、何で測れるのか
尚吾と紘は、それぞれの祖父や父から言われた言葉を無意識に意識して行動しています。
彼らの価値観の根源は2人の幼少期にあるように感じます。
しかし、インターネットの登場で、情報だけでなく流行のスピードも速くなりつつある現代で、2人の価値観というのも[古い]と言われるものに。
比較的新しいと思われた紘の価値観ですら、後輩からすると古い。
何がよくて動画の再生回数が伸びたのか…
どんな物差しで測られるのか…
よく分からないまま
それでも、流行に乗れるものと乗れないものとが分かれていくさまを、自然な形で描いている作品でした。
2人が選んだ道の先を想像したい
いろいろあって、共通の価値観を見出した二人。
彼らが選んだ道の先がどんなものになるのか、気になってしまう終わり方でした。
私たちの現実が、『スター』の延長上にあるような気がしました。
『スター』の特徴
「良いもの」とはなんなのか
『スター』では主人公のふたりが、自分にとって良いものを模索していく中で、たくさんの人に認められるものが果たして本当に良いものなのか?と考えるようになります。
特に、映画監督に弟子入りした尚吾にとって、YouTubeの存在は理解しがたいものだったようです。
素人が作ったものが、全世界に向けて発信され、それがもとでテレビや映画になるのです。
いわゆる正統派の彼にとっては、理解できなくても当然かもしれません。
面白いものや趣味が多様化した現代で、「本当に良いもの」というのは何なのか?
本書は、尚吾と絋の悩んでいる姿をとおして、読者に「本当に良いもの」について考えさせてくれます。
なにを基準にして「良いもの」とするのかも多様化した今、「良いもの」を発信していくことの難しさを本書は伝えています。
普遍的なものはあるのか
動画や映画を撮る仕事をする2人が主人公として描かれている本書。
物語の中では、視聴者目線からの動画の良さや編集のクオリティーが変化していることが描かれています。
さらに、スポンサーやお金を出す人たちからの要求も日々変化していることがわかります。
つねに変化し、移り変わっていく現代において、普遍的なものは存在するのか?
そんなことを本書は訴えているように感じました。
『スター』がオススメな人
YouTube、インスタグラム、Twitterなど…なにかしらのアカウントを持っていて、発信している人は共感するところが多いので、主人公たちに共感できるので面白いですよ!
絋に共感できると思います。
絵を描いたり、映像を撮ったりと芸術関係に興味がある人にも、勉強になる部分も多いのが本書です。
尚吾に共感できるのではと思います。
好きなものが世の中の流行によって変わっていると思う人。
自分の好きなものがコロコロ変わっているなと感じている人。
こんな人は本書を読むと、グサグサ気持ちいいくらい刺さると思います。
まとめ
現代の価値観や当たり前とされていることに、改めてスポットをあて、深掘りしていったものが『正欲』と『スター』です。
自分達が当たり前に享受している常識やモノサシ、それは誰が決めたことなのだろう?
これらは自分で探して選び、決めていることなのだろうか?
今回紹介した2作品を読んでいて、自分の頭の中にあったのはこの言葉でした。
私のように、読みながら考えたいという人は、朝井リョウさんの作品たちはオススメです。
朝井リョウさんは、ほかにも平成時代の特徴を扱った『死にがいを求めて生きているの』や、就活について深掘りした『何者』なども書いています。
ぜひ、読んでみてくださいね!
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