あなたは、感染症予防でマスクを付けていますか?
それとも
個人判断になってから外しましたか?
マスクをつけることが当たり前になってしまった昨今ですが、以前はマスクを付けている人はそんなに多くなかったはずです!
そんなことを思い出させてくれて、常識の変化を考えさせられる小説をご紹介します。
名前:読書司書とも
図書館司書として10年以上勤務し、さまざまなレファレンスや選書を行なってきた。
書店員としての経験もあり、年間400冊以上読書をしている。
厭世マニュアル
『厭世マニュアル』あらすじ
人生、マスクが必需品。自称「口裂け女」ことくにさきみさとは、札幌在住の22歳フリーター。
他人とはマスクを隔てて最低限の関わりで生きてきたが、諸事情により、避けてきた人々と向き合う決意をした。自己陶酔先輩の相手をし、引きこもりの元親友宅を訪問し……やっかい事に巻き込まれ四苦八苦するみさとだが、周囲の評価は確実に変化していきーー?
衝撃の結末とある「勇気」に痺れる、反逆の青春小説!解説・森見登美彦
公式あらすじ
彼女の選んだ道とは・・・?
厭世マニュアルを読んでの感想
今の常識との比較
今はマスクを付けるのが常識のようになっています。
(個人判断になってからだいぶゆるくなってきましたけど)
マスクを付けないと失礼にあたるような…一緒に食事や会話もできないようになっています。
しかし過去はどうでしょうか。
「ちゃんと働こうとしたら、早くマスクなしに慣れとかないと厳しいよー。そりゃあ風邪の時はしないとダメだけどさ。でもやっぱり、人と接する時にマスクなんて、普通は失礼なんだからね」
『厭世マニュアル』72ページより
たった数年で変化する常識。
常識は生き物のように、当たり前に変化するのだと再認識させられます。
それを私たち人間は、常識は絶対不変な存在だと思っている滑稽さ。
そこがまた面白いんですよね。この違いを楽しめるのは、今がマスク生活を数年経験しているからだと私は思うんです。
主人公目線で読んでみた
主人公のみさとちゃん目線で読むと、周囲の身勝手さにイライラしてしまいます。
それと同時に…マスクがあることで彼女自身が楽になっている部分があることにも、薄々気付いてしまいます。
彼女の声はマスクによって封じられていますが、それを彼女は解き放とうとします。
この姿に、私たちは自分の青春時代を重ねるのではないでしょうか。
解説で森見さんは以下のように書かれています。
薄暗い青春の片隅でうごうごしているとき、我々はみんなマスクをつけている。そのマスクは世界を拒否するためのものであり、自分の「声」を封じるものである。どうしてそんな境地へ自分を追いこんでしまうかといえば、世界が気に入らないにもかかわらず自分に自信がないからである。世界は間違っている。かといって自分が正しいとも思えない。
みさとちゃんの付けているマスクが、私たちも付けている見えないマスクと無意識に重ね合わせているように思えます。
このマスクを外した時、私たちは大人になれるのかもしれません。
なかなか勇気のいることですが・・・。
最後の最後、みさとちゃんが下す決断、発する言葉に胸がスカッとしました。
『厭世マニュアル』の特徴
常識はずれの不思議な一人称
主人公のみさとの視点で物語が進む本書ですが、彼女が付けているマスクも喋ります。
しかも、ちょっと昔のプレイボーイのような話し方(笑)
古いんですよねー。
みさとちゃんは若いのに。
マスクはみさとの心の声。
周囲から見た彼女の姿を、マスクの声という形で表現しているのではないか?
さらに、彼女の一人称は限りなく狭く、読者に届けられるのは彼女の視野のみです。
朝起きてからバイトに行き、鬱陶しい先輩や叔父夫婦と対峙するときも、
彼女は自分の心の声と会話し、ときにはマスクと会話をしています。
会話すら物語を進めるための文章で、一人称の地の文になっています。
これらが不思議な一人称だと私が思っている理由です。
マスクは主人公の防衛線
マスクを付けているからといって、人から見下されて誤解される「口裂け女」
しかし、決してマスクを外さないみさと。
なぜなら、マスクは彼女の防衛線の役割を果たしているから。
アルバイト先でも、強引な先輩の前でも、彼女はほとんど話すことはありません。
しかも怒られている時も誘われている時も、彼女の表情は見えないため、相手は勝手に解釈して話を進めてしまいます。
それが、みさとにとっては都合がいいのかもしれません。
マスクはみさとにとって安全地帯。
現在のように、顔や表情を見られないことに安心している。
マスクをすることで、トラブルや余計なことを言うことを避けているのだと考えています。
それぞれが持っている正しさ・常識
みさとの周りには、叔父夫婦や新人バイト、自己陶酔先輩など、彼女のマスク姿に思うところがある人がたくさんいます。
彼らがそれぞれの持っている、自分自身の正しさでみさとを正そうとします。
その姿は、「○○ポリス」「○○警察」のようですなんです。
そんな世の中に対して、嫌気が差しているみさと。
それでも向き合おうとする姿に、勇気をもらえます。
周囲が干渉してくる様子は
『コンビニ人間』(村田沙耶香:著)を彷彿とさせました。
厭世マニュアルがオススメの人
ちょっと変わった青春小説を読みたい
青春小説といえば…どんな物語を思い浮かべますか?
学生が友人と乗り越える系?
思春期の子が親との関係に悩みながら学校生活を楽しむ感じ?
それとも・・・
恋愛を楽しむ系でしょうか?
『厭世マニュアル』は、恋愛も友情もありません!
むしろ避けているようでもあります。
周囲の干渉を避けて避けて、恋愛も友情も乗り越えることもない。
新しい青春を主人公のみさとが送っていきます。
変わろうと決めた女の子の物語が読みたい
みさとはマスクをずっと付けている女の子です。
そんな彼女が変わろうと思ったきっかけは、〇〇の影響です。
(詳しくはぜひ本書を読んでください)
ただ、その変化の仕方がかなり変わっています。
明るくなるとか、就活するとか、そんな生半可なものじゃないんです。
どんな風に彼女が変わったのか、
ぜひ『厭世マニュアル』を読んで確かめてください。
常識というものにモヤモヤしている
マスクをつけないことが常識だったコロナ前。
『厭世マニュアル』は、コロナ前の世界での物語なので、マスクを外しておくのが常識なのです。
その常識を押し付けてくる周囲の正義。
コロナ前とウィズコロナの今、常識が変化していることが『厭世マニュアル』を読むことでわかります。
絶対普遍だと思われた《常識》が変化するものだと理解するだけで、心が楽になると思います。
最後に
以前、生きづらさを抱えている人向けに記事を書きました。
本書に出てくる人々は、それぞれに生きづらさを抱えているように感じます。
みさとちゃんにスポットライトを当てて書いてありますが、新人バイトも先輩も、元親友だって。
それでも、自分よりも下だと個人的に思った人には偉そうにしていいとプログラムされているのでしょうか。
彼らの姿は、SNSで見られる姿を彷彿とさせるのではないでしょうか。
なんだか鬱屈とした世界にモヤモヤして、スカッとしたい人は特に読んでほしい一冊でした。
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