私は「愛」がなんなのか。エゴがなんなのか。
よく分かりません。
だからこそ、「愛とはエゴなのか」という文言、二人きりという閉塞的な世界観の本書に惹かれたのかもしれません。
LGBTQ+の方々への理解が進む現代で、同性愛者が主人公なのですが…同性愛ではなく「愛」がテーマの小説があります。
高山真さんが書かれた『エゴイスト』です。
本書は、鈴木亮平さん、宮沢氷魚さんが出演されている映画「エゴイスト」の原作小説です。
原作小説を読んで、映画を観に行ったので、レビューしていきたいと思います。
小説『エゴイスト』とは
小説『エゴイスト』とは、小学館から発行されている高山真さんが浅田マコト名義で著した自伝的小説です。
(現在は高山真さんで統一されています。)
あらすじ
主人公は斉藤浩輔という雑誌編集者。
彼は、中学時代まで同級生から陰湿ないじめを受けており、母の死をきっかけに故郷を出ることを決意します。
東京に出た彼は、編集者として成功し、自分がゲイであることを受け入れてくれる仲間にも出会い順風満帆な生活を送ります。
ある日、ゲイ仲間から体型の緩みを指摘され、ゲイであるパーソナルトレーナー・中村龍太を紹介してもらいます。
龍太は浩輔にとって魅力的なタイプで、それは龍太にとってもそうだったようで、2人はやがて恋人同士のような関係になり、身体の関係を持つようになります。
病弱な母親を助けるために働く龍太に心打たれた浩輔は、会うたびに「お母さんに」とお土産を渡します。
順調に交際を重ねる2人。
しかし、龍太には、浩輔には話していない秘密がありました・・・。
映画「エゴイスト」について
浩輔の仕事、故郷へ帰るシーン、そしてゲイ仲間と飲んでいるシーンが交互に混ざり合うように始まる映画。
まるで浩輔の心を表現しているように混沌としながらも、故郷への鬱屈とした気持ちと上京してからの明るい思いを表現しているようでした。
龍太とトレーニングするシーンも、回を追うごとに2人の信頼関係が深まっているようで、映画ではなく本物の恋人同士を見ているようでした。
映画「エゴイスト」の魅力
本作品の魅力は、追求され尽くした圧倒的なリアリティではないでしょうか。
インタビューでも鈴木さんが答えていらっしゃいましたが、役作りのためにさまざまな努力をされていて、同性愛者に見えるような演技をされているようでした。
浩輔が龍太を見る視線の温かさ、愛の深さ。
龍太が浩輔を見る目の柔らかさ、信頼の深さ。
これらは観ている観客を思わずドキッとさせるものがありました。
性行為のシーンも卑猥になりすぎず、かといって作り物めいておらず、絶妙なラインをつくっているなと感じました。
そして、浩輔の部屋にあるベッドも色彩効果が素敵で、エゴイストといえば青というイメージになりました。
浩輔が龍太に与える生活の安心という愛。
と、同時に龍太を自分のものにしておきたいエゴにも感じられます。
しかし、浩輔は龍太や彼の母親に「愛」を与えることで、同時に愛を与えられているのだと
映画を通して感じることができます。
「愛」とは与えること。だと何かで読んだことがありますが、
本作品は、それを映像化することに成功した作品だと感じました。
最初から最後まで、「愛」をテーマに描いている作品でした。
映画「エゴイスト」のキャストについて
「エゴイスト」のキャストも、監督さんのこだわりを感じました。
主演の鈴木亮平さん、相手役の宮沢氷魚さん。
阿川佐和子さんや柄本明さんといったベテラン俳優さんが脇を固めていらっしゃるのみならず
ゲイ仲間の方々は、実際のゲイの方を起用されているとのこと。
どうりで演技が自然なわけです!
これからの時代は、同性愛者の作品は同性愛者の方が、異性愛者の作品は異性愛者の方が演じられるようになるのかもしれません。
また、映画のエンドロールにはLGBTQ+インクルーシヴ・ディレクター という新しい役職の方の文字が流れていました。
これは、アメリカではすでに存在するものらしく、日本では「エゴイスト」が初めてだそうです。
実際の日常に近いものにするために、アドバイスをもらっていたとのこと。
このリアリティを追求しているところも、本作の魅力のひとつですね。
映画「エゴイスト」の演出について
小説では見られなかった演出も映画「エゴイスト」の面白さだと思います。
浩輔がコートを着て自身の部屋で歌うシーン。
これはおそらく小説ではなかったものだったかと思います。
また、浩輔の所謂「オネェ」口調や仕草も、映画の演出なのかなと感じました。
映画では、「分かりやすさ」「大勢の人に観てもらう」ことが重要だと思うので、このような演出につながったのかなと思っていました。
ただ、高山真さんの友人にも話を聞いているところから、もしかしたら、彼自身がやっていたことを忠実に再現したのかもしれない・・・とも思っています。
小説と映画の比較
小説と映画では、カットされたシーンや追加されたシーンがいくつかありました。
追加シーンについては演出部分で書きましたので、ここではカットされてしまったシーンについて書いていきます。
・龍太と龍太の母親、浩輔が3人で出会い、車を渡すシーン
・浩輔の生活がドンドン変化していく様子
・2人のさいごに関わるいくつかの伏線
上記はどれをとっても、小説全体に影響を及ぼす場面だと思っていたので、カットされていて少し残念でした。
特に車を渡すシーンは、浩輔が龍太と彼の母親の後ろに、自分が母親にしたかった親孝行を見ているように感じて、小説を読みながら「この幸せが永遠に続いたらいいのに」と願わずにはいられませんでした。
また、浩輔が龍太の生活を助けるために生活がドンドン変化していくシーンは、
他にやり方はなかったのかなと考えてしまいました。
互いが互いを想い合った結果のラストでは、
愛とは与え合うこと。と同時にエゴを渡し合うことなのかもしれないと思ってしまいました。
YouTubeでエゴイストについて語りました
映画を観た直後、エゴイストの素晴らしさについて語りたくて、YouTubeで語りました。
よかったら、観てみてください。
おまけ
AmazonAudibleを登録されている方は、聴く読書で「エゴイスト」の世界を堪能できます!
エゴイスト: (小学館) https://amzn.asia/d/ed1wwmt
落ち着いた男性の声で語られるので、エゴイストの世界にどっぷり浸かることができます。
二人がイチャイチャしてるシーンも、読むよりも、もしかしたら衝撃が緩和されるかもしれません。
まとめ
同性愛者が主演として登場するので、苦手な人もいらっしゃるかもしれません。
R指定がかかっている映画でもあるので、観る人を選ぶ映画でもあるでしょう。
それでも、「愛」や「エゴ」について視覚的に知る映画であることは間違いありません。
私は自分の「人の愛し方」や「愛の受け取り方」について考えるようになりました。
また、この映画や小説を見たことで、同性愛者や異性愛者についても改めて考えています。
人を愛する気持ち、愛おしいと思う気持ちに同性とか異性とかというものは関係ないように改めて感じたのです。
さらに言えば、他人とか身内とかという血のつながりすらも「愛」の前では関係ないように思えます。
自分が愛したいから愛するのだ!それだけでいいように思えました。
最後に、浩輔が父親に、母親が病気になったとき大変だったか聞いた時に、
「お金は大変だったが、面倒を見るのは大変だと思ったことはなかった」
と答えるシーンがあります。
そして、母親が「負担をかけているから、別れてほしい」と言い、それに答えた父親の言葉が心に残ったので引用しておきます。
出会っちゃったから、しょうがないだろう。出会っちゃって、お互いまだ大事に思ってるんだから、しょうがないだろう。お互いまだ大事に思ってて、しょうがないから、やっていくしかないだろう
80ページ10行目 小説『エゴイスト』高山真:著(小学館文庫)より
それぞれの感想や心に残る場面がきっとあると思います。
個人的には小説を読んだ後に映画を観ることをオススメします。
ぜひ、小説を読んだ後に映画を観てみてください。
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