新感覚のホラー小説。新しい百物語の形『三島屋変調百物語シリーズ』

ホラーというよりも、怪談話という方がしっくりくる江戸時代を舞台にした怪談時代小説。
作者である宮部みゆきさんのライフワークになっているといわれている『三島屋変調百物語』シリーズをご存知ですか?

こんな人にオススメな小説です。

  • 現代ホラーが好きだけど、ほとんどの映画や小説見てしまったという人。
  • 新しい形のホラー小説を求めている人
  • 百物語を読んでしまって、怪談ものを新しい怪談小説を探している人
  • 手軽に面白い時代小説を探している人

ぜひこの記事を読んで、検討してみてください!

目次

『おそろし~三島屋変調百物語事始~』

 時は江戸時代。江戸の神田筋違橋近くの三島町に店を構える袋物問屋。
 主人公・おちかは、ある事情で実家の旅籠【丸千】から叔父が営む三島町に居候することになる。(ちなみに旅籠とは、現代でいう素泊まり旅館をイメージして下さい。)
普通は習い事や遊びに出るのだが・・・おちかは、お嬢様のように生活するのではなく、女中のように働くことを自ら願い出る。 そんな時、ひょんなことから叔父の碁仲間から不可思議な話を聞くことになったおちか。   叔父である伊兵衛は、その話を聞いて姪のおちかの心にとって良いことではないかと、変わり百物語を始めることにする。 もちろん、聞き手はおちか1人だ。
早速、仲介屋・灯庵に話を広めてもらい、5日に1人だけと決めて変わり百物語が始まったのである。

語り手は、語り手本人や登場人物、場所などは嘘でも構わない。
語って、語り捨て。
聞いて、聞き捨て。

 これが、この変わり百物語の決まり。  

訪れる客は老若男女様々。おちかは、彼らと関わることで、自分の過去の傷とも向き合っていくことになる。

おちかが抱える暗い過去、彼女が実家を離れて江戸に逃げるように来た理由、そして彼女の元に現れる謎の商人とは―。

いくつかの謎を提示しては回収するというテンポのいい短編連作小説です。

おちかの過去も気になりますが、物語の中で不思議な商人が登場します。この男もかなりクセがあって気になるところです。

また一緒に働いている女中頭のおしまも頼りがいがあり、おちかの訳ありな様子も黙って見守ってくれています。そんなところもホッコリさせてくれます。

 ホラーは苦手だけど、軽いものや感動するホラーものを読んでみたい人や、少し変わった時代小説を読んでみたい人には特にオススメしたいです。

あんじゅう〜三島屋変調百物語事続〜

ある古い屋敷にいるあんじゅうという可愛い生き物が出てきたり、村では恐ろしいモノを人が生み出ししまったり…第2作目はファンタジー要素の強い小説です。

江戸時代。江戸の神田・三島町に店を構える袋物屋・三島屋には、変わった趣向の催し物があると話題になっている。変調百物語……5日に1人招いて、不思議話を聞くというものだ。
―聞いて聞き捨て、語って語り捨て―
が信条の変わり百物語は、ちょっと込み入った事情を抱えた姪のおちかが聞き手を務めている。このおちかもまた、花も恥じらう年頃で美人だと評判である。
前作で自身の抱える闇と相対したおちかだが、今回のお話もまた人様の闇を覗き見るものばかりだ。
奉公人の新太と、彼が通っている寺子屋の友達との繋がりで出来たご縁が招いた表題作「あんじゅう」。
そのご縁が奇縁を招いて出会った偽坊主が、改心するに至った話「吠える仏」。
おちかが気散じに出掛けた先で見かけた不思議な女性と彼女を連れた家族の曰く付きの話「藪から千本」など。

人が好きな可愛い生き物あんじゅうの話に心が和んだ後に、ある村で起きていた忌まわしい風習。この風習が招いた悲しく恐ろしい結末に、人の業の深さや怖さを感じました。

そして「藪から千本」は、親の情や人の嫉妬、言葉の裏にある本当の心について考えさせられる内容でした。

今回も、不思議な話が目白押しでした。特に人の心の内に触れるようなものが多かったように思いました。

人は語りたがるもの、自分の不可思議話を。

泣き童子〜三島屋変調百物語参之続〜

人の心を知りたいと思ったことはありませんか?
そんな人に戒めとして、この小説をオススメしたいと思います。

江戸時代の神田筋違橋にある三島町の三島屋では、語り手も聞き手も1人だけという変わり百物語が袋物屋の商いと並んで評判を取っている。
前作から仲間入りしたお勝と、女中頭のおしまと一緒に楽しくも忙しく働くおちか。ちょっと人には言い難い過去を持つ彼女は、近頃評判の変わり百物語の聞き手である。
今回、そんなおちかのもとにやって来たのは、年頃も近い娘である。
―好きな人の気持ちを確かめたいって思ったことはないだろうか?―
―お互い相思相愛なのに、本当に自分を好きか気になるってことは?―
―嫉妬してしまうことは、どうだろう?―
今回の話し手は上記のような悋気持ちなのである。そんな女性は特に行ってはならない魂取の池のお話。悋気持ちの神様が住んでいて、カップルを意地悪な方法で別れさせるというのだが……。
他にも、ある男性が幼い頃に体験した屋敷が変化する話の「くりから屋敷」、
倒れ込むようにしてやってきた骸骨のような男が語った、ある人物の近くでだけ泣き止まない「泣き童子」
出府したばかり若侍が語った彼の母の役割に纏わる「まぐる笛」
夫を亡くしたばかりの女性が語ったのは、放蕩者だった叔父が改心して始めた不思議な行動「節気顔」
そしておちかが黒白の間から出て、初めて参加した怪談語りを聞く話など……今回も面白くも怪しいお話が盛りだくさん。

どの話もですが、お客人が話す際に出させる茶菓が美しく美味しそうに描写されるのも本書の魅力です。

こんな人が居たらいいなぁ。とか、こういう場所があったらなぁ。と思わせてくれる怪談物語。
あなたも読んでみませんか?

三鬼〜三島屋変調百物語四之続〜

本格的にホラー要素が強まった本作。宮部みゆきワールドに惹き込まれている人は、読まずにはいられないはずです。

江戸の神田にある三島屋。その袋物屋に訳あって身を寄せている姪のおちかは、近頃名物となりつつある変り百物語の聞き手である。
江戸に来た当初は、ほとんど家から出ることも無かったが、青野という浪人や小さな友達が出来たことで外をすることもある。
ある時、商売の手伝いと言って花見に駆り出されたおちかは、この時期にしか商売をしない弁当屋の話をく。何やら訳アリの様子に聞いてみると「食客ひだる神」の話を主人から聞くことになる。
他にも今回の話は、ある藩で江戸屋敷を取り仕切っている武士が若い頃に体験した表題作「三鬼」を筆頭にとある小さな村で起きた旅籠の話「迷い旅籠」
話し手の様子から不可思議だった「おくらさま」といった前作を上回る様な不気味な話が舞い込んでくる。

そんな中、おちかの日常にもちょっとした変化が生じて、おちかの心はまたしても波立つのである。

人の美醜に関わることは今も昔も諍いを呼びます。「おくらさま」では、かつては美しかったという老女が、自分たち三姉妹に起きた哀しい出来事を話すのですが、見た目というのはこうも人を狂わせてしまうのかと感じました。

だんだんと不気味度が増してくるこのシリーズですが、宮部みゆきさんファンだけでなく、ホラー好きや時代小説好きに、そして怪異好きにもオススメなシリーズとなっています。

あやかし草子〜三島屋変調百物語伍之続〜

三島屋変調百物語シリーズ第1部の完結編になる本作、なぜ完結編なのか、おちかにどんな変化が訪れたのか…必読です。

前作に引き続き、従兄の富次郎が聞き手(次の間に隠れている)に加わっているが、三島屋の変わり百物語が「聞いて聞き捨て、語って語り捨て」を信条にしていることは変わりない。語りたい客を茶菓でもてなし、不思議な体験や秘密そして時には罪を語ってもらう。

さて始まりは「開けずの間」という何とも怪談話には相応しい物語である。今でもする人があるだろう願掛けの1つ「○○断ち」に纏わる話だ。
「開けずの間」で心がシンとしたところに「だんまり姫」「面の家」というパンチの効いた話が連続する。
どちらも人の業、思いについて考えさせられる怪談話である。
そして最後には、完結編というには相応しい物語2つが用意されている。
今回も「あやかし草紙」という題名がぴたりと合う作品だ。

怪談話といえば夏だと思う方も多いでしょうが、宮部みゆきさんの本作は季節の移り変わりや行事ごと、お客に出される茶菓子も美しい作品です。

ここで1度完結編となりました。
良かったら読んでみてください。

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